「Bar KO-BO」こぼれ話その1:「OEM生産と自社オリジナルブランド」
先日、ニッポン手仕事図鑑様よりお誘いをいただき参加した、オンライン番組『Bar KO-BO(バーコウボウ)』。
8月11日より配信が開始されていますが、その日は奇しくも私の四十四回目の誕生日でした。
ニッポン手仕事図鑑様から、思い出に残る誕生日プレゼントをいただけたな、と思っています。
今回の動画出演をきっかけとして、
・工場経営のこと
・職人を生業とすること
・これからの目標
これまでぼんやりと考えていたこれらのことが、対談を通して言語化することで、よりはっきりとした考えになったなと感じています。
自分でも配信された動画をみましたが、口下手なこともあってなかなか思いを伝えきれていない部分もあったり、話をしていく中で新たな発見があったり。
そこで今回は、動画内で語った内容を補足するような事柄について、書いていこうかなと思います。
動画と合わせて、お読みいただけると大変嬉しく思います。
Table of Contents
OEM生産か自社オリジナルブランドか、それが問題だ
「Bar KO-BO」での大きなテーマの一つが、「OEM生産と自社オリジナルブランド」についての葛藤でした。
OEM生産と自社オリジナルブランドについて、簡単に解説をします。
OEM生産とは、「委託を受けて他社のオリジナル製品を生産すること」。
つまり、ものづくりに特化した工場運営をすることを指します。
自社オリジナルブランドとは、「自社で企画生産(生産は委託(つまりOEM会社に外注)もある)し、販売まで行う」こととします。
つまり、商品企画と販売がメインのお仕事となります。
多くの小規模な工場は、基本的にはOEM生産になろうかと思います。
しかし、ものが売れない時代になり、これまでの取引先からの受注が思わしくない状況の中で、
自社でブランドを立ち上げて、それを柱にしていこうという流れが出てきました。
その背景には、インターネットの後押しもありました。
商品は作れるのだし、あとはそれに自社ブランドのタグをつけて、インターネット販売を始めれば良い。
一見正しそうなこのアイデアですが、実際にやるとなるとかなりハードルが高いです。
理由は、工場には「販売に関するノウハウが全く育っていない」ため。
工場の人間には、「いいものを作れば誰かが評価してくれる」という”甘え”が少なからずあります。
しかし、実際にはそんな甘いものではありません。
自社オリジナルブランドで勝負をしている会社は、多くの資金と時間、知恵を投入してブランドを育てているわけです。
OEM生産の片手間でブランドを育てようとしても、ブランドの育成と販売を本業としてやっている企業に太刀打ちできるはずもありません。
私もOEM生産をしながら、自社オリジナルブランドをなんとか立ち上げたいとあれこれ苦闘しましたが、結局泣かず飛ばず・・
ごくごく一部の工場を除き、自社オリジナルブランドを成功させているところは、実際にはかなりの少数なのではないかなと思います。
タグをつければ自社オリジナルブランド?
私が自社ブランドをうまく作れなかった理由には、「作りたい”モノ”」がなかったということもあります。
いざ、何か作ろうかと考えたときに、何も浮かばなかった。
正確にいうと、どれもこれもOEMのお客様の真似事にしかならないという事実に気づいたという感じです。
自社オリジナルブランドのために、OEMのお客様の真似をして(パクって)・・
そんな不義理なことをしていいのだろうか・・・
そのことが、自分の中の大きな悩みの種になりました。
そこで独自の作家性を発見しようと、いろんな帽子作家さんにお会いすることにしました。
色んな作家さんに会って話を聞けば、自分の中の作家性に気づけるかもしれない。
多くの作家さんが共通して持っていたのが、「これが作りたい!」という情熱。
作家さんの中には、昼間に別の仕事をしながら夜な夜な帽子作りに励んでいる、なんて方もおられました。
作家さんにはそれぞれ作りたいものがあり、商品を見れば「あの人の作品だな〜」とわかる。
翻って自分の中を覗いてみたとき、
子供の頃のトラウマ的体験から「モノ」に対する執着が全くない、という事実に気づいたのでした。
そんな自分には、オリジナルブランドを作るのは難しいだろうな・・
とても残念な発見でした。
ブランドってなんなのか?
今でも答えは出ていないのですが、
「商品にタグさえつければオリジナルブランドになる、わけではない」
ということだけは、確かなことだろうと思います。
広告塔としての自社オリジナルブランド
商品=作品ではない。
だから、作家性なんてものに頼る必要はない。
自社の技術を活かした、尖った商品を作ればよい。
新規性があって、メディアが取り上げたくなるような商品。
尖った商品の販売だけで売り上げを立てるのは難しいかもしれない、しかし、広告塔として活用することでOEMの営業に繋げれば良い。
こんなアイデアをいただくこともありました。
こちらについて、一定の理があるかなと感じていますし、また私にもこれならできるかも。。
・自社オリジナル商品でなにかの賞を取る
・企画展を行う
などで、自社の存在や得意とする技術力を知ってもらう機会を増やす。
小さな工場では、まず知ってもらうということ自体が難しいことが多いので、有効な手段かなと思います。
また、以前テレビ取材を受けたことがあるのですが、多くの問い合わせをいただきながら、
販売するための自社オリジナルの商品がなく、結果売上に繋げることができなかった、という苦い経験があります。
チャンスを掴むという点においても、広告塔としての自社オリジナルブランドを持つのは良いことかもしれません。
しかし、私にはこのアイデアもハマらなかった。
なぜなら、私が仕事を始めてからずーと、OEM生産の依頼は漸増しているから。
お客様とともに育つ工場を目指そう
OEM生産のお仕事は、私が職人の仕事をし始めてから途切れなく、増え続けているというのが現状です。
少子高齢化で需要の減少(デフレ化)こそが日本の大きな問題とされる中で、本当にありがたい限りです。
OEM生産のお仕事が増え続けている理由の一つが、
取引当初、小さなオーダーだったお客様が大きく育ったから。
最初のお取引で数点だったお客様が、
継続してお取引していく中で、何千個のオーダーになるということが度々あったのです。
なので、私どもでは、最小のロットというのを設けていません。
1点からでもお作りさせていただいています。
細かいオーダーというのは、非常に面倒です。ほんと〜に面倒なんです。
しかし、
自社オリジナルブランドの育成に割く時間があるのであれば、こういったオーダーをきっちりこなしていこう、
そして、お客様の成長に寄り添って、私どもも一緒に成長させてもらえればいいじゃないか。
自社オリジナルブランドの検討で煩悶する中で、そのような思いに至ったのでした。
ホームページを作ってくれた20年前の自分に「ありがとう」と言いたい
もうひとつ、OEM生産のお仕事をいただき続けられている理由は、ホームページの存在。
インターネットがまだまだ目新しい2000年ごろにホームページを作った、
その先行者利益をいまだに享受できているのです。
私がまだ大学生だった頃、パソコンに興味を持ち、そしてホームページを作りたいなと。
テーマが特に思いつかなかったので、父がやっていた事業のホームページを作らせてもらうことになった、
それが今につながっています。
その後、2週間程度でホームページを見た渋谷の帽子屋さんからOEM生産のオーダーが入った。
今でもその時の感動は、忘れられません。
はじめて社会と繋がったという感覚、自分にも役に立てることがあるんだという発見。
ちなみに、その渋谷の帽子屋さん、大ヒット商品を連発して、今年ダントツの売り上げNo.1となっています。
「ありがとう バスケやめんでくれて。」
NBAの八村塁選手が過去の自分に伝える印象的なCMがありますが、
あのCMを見るたび、
「ありがとう ホームページ作ってくれて。」
と過去の自分に言いたい気持ちになります。
狩猟採集としての生き方
フロー型労働であるOEM生産とストック型労働である自社オリジナルブランド育成の対比というのは、
狩猟採集社会と農耕社会の違いに似ているなと感じることがあります。
「サピエンス全史」を読んだときに、とても印象に残ったところがあります。
人類は農業革命によって、手に入る食料の総量を増やすことはできたが、食料の増加は、よりよい生活や、より長い余暇には結びつかず、人口爆発と飽食のエリート層の誕生につながった。平均的な農耕民は、平均的な狩猟採集民よりも苦労して働いたのに、見返りに得られる食べ物は劣っていた。
サピエンス全史(上)
ホモ・サピエンスは(小麦・稲・ジャガイモなどの一部の)植物種を栽培化したのではなく、逆にホモ・サピエンスがそれらに家畜化されたのだ。
以前より劣悪な条件下であってもより多くの人を生かしておく能力こそが農業革命の神髄だ。
自社オリジナルブランドというのは、企業にとっての穀物のような存在なのかもしれない。
たしかに、自社オリジナルブランドを獲得すれば、爆発的な規模の拡大ができるのかもしれない。
しかし、その会社で働く人の幸福度は下がるのかもしれない・・
少なくとも、現状の私たちにとって、オリジナルブランドを進めることは、目の前のお客様に少なからず負担を負わせることになる。
そして、私自身は、会社の規模を大きくしたいと思ったこともない。
それなら、狩猟採集的な生き方もいいんじゃないだろうか・・
人類の歴史を振り返れば、狩猟採集から農耕への大きな流れは押し留め難い。
OEMの工場は、巨大な世界的ブランドによって淘汰されていく運命かもしれない。
しかし、
誰も知らない美味しい実のなる木の場所を見つける
誰も食べないものをうまく調理して、美味しく食べる技術を身につける
そんなふうに、しぶとく、強かに生きていく方が、楽しいんじゃないだろうかと。
今は、そんな風な思いで、OEM生産の仕事を楽しんでいます。
まとめ
今回は、「Bar KO-BO」での大きなテーマの一つだった「OEM生産と自社オリジナルブランド」について、思いつくままに書いてみました。
OEM生産をメインにして働いている立場からあれこれ書かせていただきましたが、
決して、自社オリジナルブランドの展開を否定しているわけではありません。
むしろ、OEM=>自社オリジナルブランドへの上手い道筋を見つけることができたら、
色んな人にそのノウハウをシェアしたいな〜と思ったりしています。
また、これから仕事を続けていく中で、
やがて自分の中にも、作家性を発見できることがあるかもしれません。
その時は、自信をもって「これが俺の作品だ!」と言えるものを作りたいな、
そんなふうにも思っています。
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